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【第三話】格安の賃貸マンション

若手芸人のA君とB君はルームシェアができるアパートを探していた。
お金がない二人は安い賃貸物件を探すため都内をひたすら歩き回っていた。
そして、やっと見つけた物件は、破格に安くて、広くて、都心から近いという好条件のマンションだった。
諦めずに探し歩いた甲斐があったと二人は喜んだ。

1Kにロフトが付いた部屋は二人にとって十分過ぎる広さだった。
A君は昼間のアルバイト、B君は夜間のアルバイト。お互いに顔を合わせる時間を極力少なくすることを心がけて新しい生活がスタートした。

お互いにストレスもなく快適な暮らしを続けていたある日のこと。

明け方、夜間のアルバイトを終えたB君が玄関の鍵を開ける音で、ぼんやり目を覚ましたA君。
コンビニの袋をテーブルの上に置いたのか、ガサガサと乾いた音がロフトで寝ているA君の耳にも届いた。
するとまもなく、ロフトに続く階段を上がってくる音がした。

A君は目を閉じて眠ったふりをしながら辺りを伺っていた。
どうやら、B君はA君の寝顔を覗きにきたらしい。ジーッと見ている様子が目を閉じているA君にも何となくわかった。

なに、なに、なんで、オレの寝顔を見に来るの?
そうだ、明日の朝、またオレの顔を覗きにきたらびっくりさせてやろう。

翌朝、A君は、B君がアルバイトを終えて帰ってくるのを寝たふりをしながら待っていた。
昨日と同じように、玄関の鍵を開け、コンビニの袋をテーブルに置く気配がした。そして、ロフトにゆっくり上がってくる足音がした。

来た、来た。よーし、もう少しだ。

目を閉じていたA君は驚かせる気満々。
タイミングを見計らって、声を上げながら勢いよく飛び起きたA君。

えっ!?

見知らぬ女性が立っていた。

薄笑いを浮かべ、覗き込むようにA君をジーっと見つめている女。

B君だと思っていたばかりに、見知らぬ女の姿はありえない光景だった。
混乱を通り越したA君は驚愕のあまり気絶してしまった。

なにも知らないB君はその30分後に帰宅した。
シンと静まり返った部屋にも関わらず、何か異様な雰囲気を感じたB君はロフトに駆け上がった。

「どうしたんだよ。起きろよ」

B君の声で我に返ったA君はこの部屋で起きた不可解な出来事を話した。

「ウソだろ。そんなことあるわけないよ」
「本当なんだってば。知らない女がいるんだよ、この部屋に」

見ず知らずの人が勝手に部屋に入り込む薄気味悪さを放っておくわけにはいかないと、二人は不動産屋に事情を聞きに出かけた。

「やっぱり、出ましたか…。やさしいお母さんだったんでしょうね」

この部屋には以前母子家庭の親子が住んでいたとか。
母親は夜、働いていたため、6歳になる男の子は、この部屋で毎夜、ひとりぼっちで過ごし、ロフトで寝ていたそうだ。明け方、帰宅した母親は、ロフトでひとり眠る幼い我が子の顔を覗くのが日課だったのだろう。

しばらくして、この親子はこの部屋で一家心中を図り、すでにこの世にはいない。

この部屋でそんなことが…。

すぐにでも部屋を引き払いたい気持ちだった。しかし、貧乏若手芸人の二人には無理なことだった。
ロフトで寝ることは、もはや絶対にできない。
どうか、もう現れませんように。
祈るような思いでA君は1階のフロアーで寝ることにした。

次の日の夜。

1階のフロアーで布団を敷いて寝ていたA君は突如、得体の知れない強い力で体を締め付けられるような感覚に襲われて目を覚ました。
直後、全く身動きが取れなくなってしまった。

金縛りだった。

あんな話を聞いたばかりだったからだろう。
激しい恐怖が全身を襲っていた。
どんなに振り解こうとしても体は硬直したままだ。
しかし、視覚は鮮明で目を動かして部屋の様子を見ることはできた。

ふと、視線を感じた…。

「何?オレ、見られてる?」

ぐるりと目を動かして捉えたのは…。

男の子だ!!
ロフトの格子の間から覗いた満面の笑み。
今にも笑い声が聞こえそうだった。

母ひとり、子ひとり。
どんな事情があったのかはわからない。
慎ましく、穏やかに親子ふたりで生きていこうと思っていたに違いない。
けれども、叶わぬ夢だったのか…。

A君が体験した不可解な現象をB君が感じることはなかった。

それからまもなくA君とB君は、この部屋を引き払い、別々に暮らし始めた。

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