●「定年後はのんびり余生を」は過去の話
世界の中でも有数の長寿国である日本。2017年1月には、日本老年学会が高齢者の定義を「65歳以上」から「75歳以上」に引き上げることを提言しました。次いで、2018年には、年金の受給開始年齢を70歳以降にする選択肢も可能とする内容が、「高齢社会対策大綱案」に盛り込まれました。
50歳~64歳を対象に行った調査では、定年後の活動で最も関心の高いのは「仕事・就労」ということからも分かるように、「定年後はのんびり余生を送る」というのは過去のスタイル。今は定年までの年月と同じくらいの年月が定年後に控えていることを念頭において、人生設計しなければなりません。健康で...
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時事/オピニオン
●「定年後はのんびり余生を」は過去の話
世界の中でも有数の長寿国である日本。2017年1月には、日本老年学会が高齢者の定義を「65歳以上」から「75歳以上」に引き上げることを提言しました。次いで、2018年には、年金の受給開始年齢を70歳以降にする選択肢も可能とする内容が、「高齢社会対策大綱案」に盛り込まれました。
50歳~64歳を対象に行った調査では、定年後の活動で最も関心の高いのは「仕事・就労」ということからも分かるように、「定年後はのんびり余生を送る」というのは過去のスタイル。今は定年までの年月と同じくらいの年月が定年後に控えていることを念頭において、人生設計しなければなりません。健康で、働く場所と機会さえあるのなら、「年金受給は70歳以降」も俄然、現実味をおびてきます。
東京大学高齢社会総合研究機構の特任教授として、高齢者のよりよい生き方をテーマに研究を重ねる秋山弘子氏は、男女ともに70代半ば以降から急激に自立度が下がっていく事実を指摘。この自立期間延長のためにも、健康対策だけでなく高齢者に向けた就労プロジェクトが鍵となると言います。
●セカンドライフの就労を視野にいれたまちづくり
そこで、秋山氏らが高齢者が元気に働けることを視野にいれたまちづくり実験に選んだのは、千葉県柏市にある豊四季台団地。この団地では高齢化率が40パーセントほどで、ある意味で日本の将来の人口比率を先取りしているのです。まず、築50年ほどたつ建物の建て替えに始まり、在宅医療拠点やコミュニティー食堂、介護サービス付きの高齢者用住宅など要となる施設が設置されました。
さらに、「全員参加・生涯参加」をプロジェクトのモットーとし、セカンドライフにおける就労を目指す仕組みづくりを取り入れました。80歳になっても、また、たとえ車いすを使うようになっても、意欲と意志さえあれば高齢者も働ける場と機会の創出を試みたのです。
場としては、数多く残っている休耕地を活用しました。そこで、車いすの人でも働きやすい屋内の野菜の水耕栽培工場を作ったり、その野菜を売るファーマーズマーケットを設けたり。もちろん、これら地元の食材は食堂でも活用され、食堂そのものが雇用機会を生むといった具合です。また、都心に出やすいまちという土地柄、東京に通勤している親世代のために、学童保育を中心とする子育て支援にもシルバー人材を登用することにしました。
●「人生二毛作」で働くチャンスを広げる
このような就労プロジェクトを推進するにあたり、秋山氏は「人生二毛作」を提案しています。「二期作」ではなく「二毛作」。つまり、今までの仕事の経験を生かして働き続けるということでももちろん良いのですが、全く新しいことにチャレンジするという選択肢だって多いにある、ということです。
これを聞いて思い出されるのが、ひな壇アプリの開発者である若宮正子氏。若宮氏、というより愛称の「マーちゃん」で呼ぶのがぴったりの可愛らしい82歳の女性プログラマーです。彼女はもともと銀行員で、特にパソコン作業や、ましてやプログラミングを専門に仕事をしていたわけではありません。60歳で定年を迎えた後、母親の介護に追われるなかで社会との関係が断たれてしまうような危機感から、パソコンを始めたのだとか。まったくの独学でプログラミングをマスターし、「高齢者も楽しめるアプリが欲しい」という気持ちから「hinadan」を開発しました。それが世界の注目を浴び、2018年2月には国連主催の会議で、高齢社会とデジタル技術の活用をテーマにスピーチをしたというのですから、まさに「人生二毛作」をたわわに実らせたお手本のような存在です。
こうしたさまざまな試み、実例を知るにつけ、これからは企業も定年制に対する考え方を柔軟にするべきだろうと思います。同時に、何より高齢者自身が自分の人生を「定年」で線引きしたり制限したりしないことが必要なのではないでしょうか。
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