ド素人のRPG制作現場潜入レポ

~⑩すべてはゲームをあなたの手元に届けるために マーケターのお仕事ー~

こんにちは。ケムコ社員Nです。
突然ですが現在今治にいます。愛媛県です。ケムコのある広島から見るとしまなみ海道の向こう側。
単なるプライベートの旅行なのですが、本コラムの連載は止まってくれないためPCを持ち込んで執筆しております。
LANすらない宿なのできっと執筆がはかどることでしょう。
ところで本宿の宿泊プランには謎の「添い寝無料」というオプションがあり、何なのだろうと胸をドキドキさせていたのですが、どうもごついおっちゃんしか宿に勤務していない疑惑が出てきたため謎は謎のままに秘めておきたいと思います。

【ゲーム制作における一般的な職種一覧】

☑プランナー(企画)
☑ディレクター(監督)
☑プログラマー(制作)
☑ライター(作文)
☑グラフィッカー(作画)
☑コンポーザー(作曲)
☑ボイスキャスト(声優)
☑デバッガー
□マーケター

ゲーム会社の業種紹介シリーズ、最後となる今回はマーケターさんなのですが・・・以前伝えたように今回は羊頭狗肉です。
とりあえず早々に説明に入ることにしましょう。
決してとっとと切り上げてのんびりしたいわけじゃありません。

マーケティングとは

よく聞く言葉ですが、正しい意味を今一度ご確認を。
マーケティング(marketing)はマーケット(market、市場)に由来する言葉です。市場調査などと訳されますが、要は顧客市場においてどんなものが求められているか、その需要を調査することです。
ちょうど今背後でつけてるテレビで妖●●ォッチが始まったのですが、例えば「世間では腹巻をしたオレンジ色の猫が流行っている」といった情報を仕入れることも立派なマーケティングです。

・・・

いや、ちょっと鶴の恩返しが火星テラフォーミングにつながる超展開に魅入られてしまいました。
初めて見たんですが、面白いですね妖●●ォッチ。

マーケティングは、ゲーム会社にとって大事です。
もちろん、流行ってるからって「よし次のRPGでは腹巻をしたオレンジ色の猫を出そう」などと突っ走るのはクリエイティブではありません。
が、新しいジャンルやビジネスモデルが開拓された時などは時流を押さえていなければなりません。
気付けばライバルに置いて行かれてた、なんてことも十分ありえますからね。
自分のところで作っている作品とネタが被った作品が先に発売されたりすると、発売時期をずらす等の措置が必要になるかもしれません。
既に販売しているゲームに対してユーザーがどのようなクレームや調整希望を持っているかというのをまとめるのもマーケティングです。
そういった希望を放置すれば、ゲームの成否に致命的な打撃をあたえかねませんし、一方で、うまくユーザーの希望を押さえれば新しいビジネスチャンスが得られるかもしれません。
マーケティングはこのように、ゲームビジネスにとって攻撃策としても防衛策としても有効です。
そしてマーケティングを行う人がマーケター。
ともすれば閉鎖的な職人集団になってしまいがちなゲームクリエイションの場において、マーケターは他のスタッフを市場に、そしてそこにいるバイヤーたち(この場合はゲームプレイヤーさんたち)に結び付け、彼らが本当に望むものを伝え、「作りたいもの」と「作るべきもの」のマッチングを行う、極めて大事な役目を負っています。

このように書くと、各社さんともマーケティングに注力し、日々最新の情報に基づいて開発を進めている・・・というのが実情のように読めるかもしれません。
10回もの連載にお付き合い頂いている崇高なる読者各位はもうお気づきでしょうが、そんなにうまくいかないのがこの業界です。

基本的には、ゲーム会社はゲームを作ることに精一杯です。
ゲームを作って売るところまで持っていくのに既に数人の従業員が必要で、基本的には彼らの労働が会社の収益になります。
マーケターは様々な専門知識や情報源、そして何より広範な人脈を有した専門職ですが、直接ゲーム制作の現場で手を動かすわけではないため、どうしても中小企業レベルだと雇用の優先度は下がってしまうのです。
そのため、市場とのマッチングは各プランナーやディレクター個々人の才覚や、経営陣やプロデューサーなど上層部によって行われる・・・ということもままあるわけです。

これはケムコでも例外ではありません。
ケムコはパブリッシャーであり、市場動向にはデベロッパーよりも敏感でなければならない立場ですが、デバッグ業務やディレクションにかなり注力しているため、マーケターは市場調査のみならず、様々な業務に携わることになります。

では、ケムコのマーケターが何をしているのか見ていきましょう。

ケムコのマーケターの仕事

ケムコのゲーム事業(モバイルビジネス推進部)のオフィスにはいくつかのチームがひしめいています。
  • ディレクターチーム
  • 品質管理チーム
  • デザイナーチーム
  • デバッグチーム(アルバイト)
  • なんだかよくわからないチーム
  • マーケティングチーム
ちなみに筆者はなんだかよくわからないチーム所属ですが、それはおいといて、マーケティングの名目を担うチームは確かに存在しているということです。
しかしその対応業務は実に多岐にわたります。

1.営業

マーケティングチームの人員は他社、とくにキャリアや端末メーカーなど大手の協力会社との窓口になっており、時に大手企業の求めるようなソフトを聞いて来たり、お得な情報を仕入れたりしてきます。
新規サービスが開始される場合などはいち早く参入を試みたりもします
営業活動には付随して最新の情報が仕入れられるメリットもあります

2.広告戦略の立案

ゲーム事業(というかモノを売るということ全般)には広告宣伝が欠かせません。ぶっちゃけ、どんなに良いモノであっても広告宣伝が不足していればまず知られることがありません。
「本当に良いモノは広告なんかしなくても売れる」とかいう方もいますが筆者は間違いだと思います。
「口コミで広がりやすいもの」は確かに存在しますし、その方向性で良いものを作れば拡散されやすいのですが、一方で広く分散した少数の愛好家たちに向けて作ったものはどうしてもそういった自然拡散が難しい。
そしてゲームというものは多数のカテゴリに細分化されたニッチのかたまりのようなコンテンツですから、どうしても広告業者の強力な発信力によって遠くまで名前を届けないとならないのです。
一方、まったく別の側面もあります。
広告をゲーム内に表示し、プレイヤーが広告を利用した(つまり表示された商品のページに移動した)場合、それがゲーム会社の収益になる・・・こういったしくみで、広告はゲーム会社の新しい収益源になりつつあります
あらゆる意味で、広告はゲーム会社にとって必須の存在なのです。
広告業には多数のルール、専門用語、やり方があり、実のところ筆者はあんまり詳しくないのですが、ケムコのマーケターたちはそれを熟知し、研究も深めつつあります。

3.広報

市場から情報を仕入れるだけでなく、逆に市場へと情報を発信する……ケムコのマーケターはその役割も担います。
雑誌記事やゲーム情報サイトにゲームの新作情報やセール情報を届けることで、彼らに記事を掲載してもらい、情報をさらに拡散してもらいます。
これは広告宣伝戦略とも密接に結びついています。
情報拡散という目的が同じであるだけにとどまらず、ゲーム会社とゲームメディアは情報提供・コンテンツ提供・そして広告宣伝における協業によって、持ちつ持たれつの関係にあるからです。
ちなみに、最近ではSNSを通じたエンドユーザーさんへの直接の情報発信にも挑戦しています。

4.ネットワークエンジニアリング

・・・最後に持ってきましたが、実はマーケターの最もヘビーな業務がコレ。

ここまでコラムを読んでいただいた読者各位は「ネットワークエンジニアはケムコにおらんのか」というごもっともな疑問を持たれたに違いありません。
います。マーケターたちが。

ケムコのゲーム事業部は現在、ゲーム収益の100%をオンラインのダウンロード販売とゲーム内課金アイテム販売で賄っています。
ゲーム屋さんで実物を売ってはいません。
だからオンラインでゲームを売るための仕組みを制作・調整・維持管理することは我々の生命線なのですが、これを担っているのがマーケティングチームです。
彼らはWEBサイト構築から、サーバー向けプログラミング、データベース操作、ゲームソフトと連動してゲーム内でアイテムを販売するための方法の整備などをすべてやってのけます。

えー、わかります。
きっと他社のマーケターさんやネットワークエンジニアさんは思うでしょう。
なんでその2つが両立できるの、と。
事実どっちも専門性が高いうえに激務です。
ケムコにおいては、やはりケータイ向けゲーム配信から現在の体制が出来上がったことが主な要因でしょう。
我々にとって当初、マーケティングとは新規発売したゲームがどのような売れ方をするか、サイトでの販売数や販売動向を分析することだったのです。
実際、商品の売れ方を詳細に分析することも立派なマーケティング。
分析のために自前のサイトを細かく調整する必要があったといえば、マーケティングとネットワークエンジニアリングが共存した理由にもご同意いただけることでしょう・・・

しかしご承知の通り、現在はビッグデータだなんだとマーケティングの手法も複雑化してきており、一方でソーシャルゲームだマイクロビリングだといったネットワーク技術を要するゲーム要素が増えてきています。
ケムコのマーケターの仕事は増える一方であり、そろそろ分散させないとヤバいのではないかと傍目にも心配なのですが、どーすかボス。

こうしてまとめてみると、ケムコのマーケターは市場調査に関わらず市場にかかわること全般をやっている気がします。
うちのマーケターはまずマーケットを自分で作るところから始める。
ここまでくると結構かっこよくないですか?
それもこれも、我々のゲームを必要としている誰かさんと我々を近づける、その目的に集約されることは間違いないですしね。

「とりあえずサイトつくってね」

ケムコ恐怖体験レポートのコーナー(いえーい)!
いままで筆者がこの会社で体験した中でも最大級に位置づけられる恐怖体験がコレでした。

何度か言っているように筆者はそもそも生物学系の学生であり、文章執筆スキルと、かじった程度のプログラム、グラフィック等のスキルセットをもってこの会社に入りました。
実は入社面接直後、「サーバーの勉強しといてね」とは言われたのです。
それで一応本は買って読みましたし、生まれて初めてPCを自作してLinuxをインストールしたりしてもみたのですが、実のところ趣味でサーバーを立ててどうこうしてみるというのは筆者の趣味嗜好とあまり合致してなかったんですね・・・概ね高度なことばかりしたくなる性分なので、そりゃあオンラインゲーム作りたいなーとか思いはしますが、いきなり目指すには遠すぎる目標ですし、手ごろな目標をそのころは持てなかったんですね。
というかそのころはアフリカツメガエルの甲状腺ホルモン輸送体タンパクの同定と機能検定に結構必死だったりもしたのです、などと6年目の言い訳を筆者は誰に対してしているのでしょうか。
というわけでサーバー知識もあまりないままにケムコに入ったわけですが、実はデバッガー(前回参照)業務をもらう前にもらった仕事(というか訓練)がサーバー構築でした。
もっとも、その辺に転がってた故障寸前のリナックスマシンをセットアップして、メールやらPHPやら色々入れてみろ的なミッションだったのですが。
まあ、これは色々調べつつ何とかなりました。
マーケティング島のボスであるEさんのどこか冷たい視線と厳しいミス指摘(今ではすっかり仲良くしていただいていますがたまに筆者が本番サーバで無限ループとか発生させると雷が落ちる いや当たり前ですが)に耐えつつ、筆者Nのサンドボックス的なサーバーがひとつ完成しました。
その後、いくつかPHPのプログラミングをしました。
要はIEやらChromeといったブラウザ上で動作する掲示板とかそういう系等のもので、業務データを整理するためのオンラインツールを作ったのですね。
このときに筆者は初めてデータベースの概念を理解しました。
(これによって筆者はようやく自前でいろんなWEBプログラムを作れるようになり、その後プライベートでもいくつかオンラインツールを作ったりしました。やはりきっかけは大事ですね)
しかしその後はデバッグやディレクターの手伝い、それに海外展開事業の手伝いをすることが多くなり、サーバーからは離れがちになりました。

そんな筆者にある日突然、
「ドコモSPモード向けのアプリ販売サイトを構築せよ」
という令達が、ボスから直接くだりました。
スマートフォン市場が急成長しだす2011年だったか2012年だったかそのころの話で、基本的にスマホアプリといえばAndroid Market(現Google Play)か怪しい勝手サイト(サードパーティーによる何ら安全保証のないアプリを配布しているサイトのことを、キャリア管理アプリが基本である携帯電話業界ではこんな風に呼んでいた)で入手するしかなかった時代です。
キャリア各社はそれぞれ、公式性と安全性の高いアプリ配信方法を模索していました。
SPモードサイトもその一つで、ドコモが認めた公式パートナーがSPモードという枠を通してアプリを提供し、お客さんから料金をいただく、というような一連の仕組みでした。
とにかく、名だたるドコモ様の公式パートナーとしてアプリを販売するそのサイトをこのカエル研究者くずれに作れというのです。
たとえて言うなら鳶職1年目のアンチャンにトンカチ渡して伊●丹の新店舗を建造しろと命じるようなもんです。

正気か。

結論から言えば、なんとかなりました。
1か月くらい、一人デスマーチを続けましたが。
公式のネットワーク仕様書を呼んでもリクエストがどっち向いててレスポンスが何を意味してるのかも理解できないようなレベルから、なんとか公式の課金シーケンスに対応してアプリをダウンロードさせて顧客データをデータベースに蓄積して云々、といった仕組みをほぼ自前で作り上げることに成功しました。
上述のEさんやKさんなどマーケティングチームの方々も「なんでこいつにやらせるんだ」と首をかしげつつも手厚くサポートしてくださったおかげです。

それでも見た目はかなりショボかったんですけどね。

今でこそ何とかなるもんだな程度に思えてしまいますが、当時の重圧と恐怖感は今でも思い出すことができます。
なにしろドコモ公式から膨大なユーザーが流入するサイトを作るのです。
バグの一つでも出せば大事故につながりかねません。
というか実際にバグを出してサーバー止まりかけたことがありますし。
もちろん、この体験をしたことで筆者には曲がりなりにもサイト構築という実績ができましたし、この時に得たノウハウで社内ツールを作ったりと貢献することもできるようになりました。何よりネットワークの向こう側で何が行われているかということが理解できたためにゲーム開発においても様々なことに気をつかえるようになったと思います。
にしてもスパルタすぎやしなかったろうか、とは今でも思うのですが。

筆者が作ったサイトはその後、時代の動きに応じて、有能なマーケターの先輩各位により換骨奪胎され、すっかりと立派なサイトに成長を遂げ、今ではほとんど面影を残していません。
それでも、筆者が名付けた変数名やらデータベース名やらが今でも運用されているのを見るにつけ、ああ、かつてここは自分が立てた伊●丹が(ハリボテであっても)建ってたんだなあ、と感慨深い思いはあります。

今回のまとめ

  • マーケターは制作現場と市場をつなぐ大事な役割
  • ケムコのマーケターは営業からネットワークエンジニアリングもこなすスーパーマルチサラリーマン
  • 腹巻きをしたオレンジの猫にあやかりたい
  • なお広島に伊●丹はない模様
初回を除けば9回にわたってゲーム会社の様々な業種を紹介してきました。
如何だったでしょうか。
とりとめのなさやまとまりの悪さを感じられた場合は、激烈なゲーム制作の合間に書かれた本コラムシリーズの味わいとして感じ取っていただければ幸いです。
ところがどっこい、回数としてはあと2回ほど残っています。

というわけで次回、および最終回の予告です。

まず次回は「ゲーム開発から販売までの一連の流れ」を総括しつつ、よもやま話を語っていく感じにしたいと思っています。
特にこれまで語り損ねたユーザーインターフェイス機種別対応の話、恐怖のお客様サポートの話などができればいいなと思っています。
まあ「できればいいな」とか言いながら今から書くんですけどね。
この旅で2本書き上げられればコスパはまあまあと言えるでしょう。
そして最終回は「世界におけるRPG」ということでひとつぶち上げてみようと思います。
ケムコはこれまでE3に出展したりと、地方企業にも関わらず世界視点でビジネスをぶちあげています。
少なからぬ成果も上げていますが、課題も山積みです。
「RPGメーカーとして世界と戦う弊社」を、内部のライターが無責任な視点でいろいろ分析してみようと思います。
怒られるかもしれませんが、まあ最後だし大丈夫だろ。
というわけで、本コラムの結末を、最後までお楽しみに。

※コラムへの感想およびマーケティングチーム救済の妙案はkeitai-info@kemco.jp にてお待ちしています。

【10回 了】



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